TEDカンファレンスとマヌーシュ・ジャズ

TED (Technology Entertainment Design)カンファレンスは、"ideas worth spreading."という精神を元に行われている、講演会だ。学術からエンタメまで、幅広い分野の人々がプレゼンテーションを行う。その魅力的な語り口とコンテンツは動画配信で広まり、今や高い知名度を誇る。最近はNHKの「スーパープレゼンテーション」という番組でも紹介されているから、日本でも有名なのではないだろうか。

このTEDのコンセプトを引き継ぎ、名称を使用したイベントが世界各地で行われている。その中にマヌーシュ・ジャズに関連したアーティストが出演しているケースもあるので、ご紹介しよう。

まずは、シリル・エイメCyrille Aimee。フランスのクレルモン=フェランで行われたTEDxClermontでのイベントの様子だ。ジャンゴ・フェスが行われるサモワ・シュール・セーヌあたりで生まれ育ち、ジャズの世界で幅広く活躍する彼女が、その生い立ちとジャズの魅力を語る。NYで出逢ったギタリスト、ミカエル・ヴァルソーMichael Valeanuとともに、インプロヴィゼーションの素晴らしさ、そして彼女がであったマヌーシュたちの生き方や文化の魅力を語る。プレゼンの方法がとっても魅力的だセッションだ。マヌーシュの暮らし方そのものがインプロヴィゼーションである、と話している。トーク中心だが、英語の字幕が出るので、フランス語ができなくてもある程度内容が把握できる。また、自分が歌手になり始めた時代から現在までの、歌う姿勢の変化をそのままパフォーマンスで表現している。ついつい、見入ってしまうプレゼンだ。


次にこちらは、メキシコでの"TEDxPitic"というイベント。メキシコのエルモシージョ(Hermosillo)という都市が出身のメンバーで構成されたグループ、"Contigo ni a Paris"が出演している。ギター4本で奏でるマヌーシュ・ジャズはなかなかの迫力だと思う。Minor Swingではじまり、音楽がたっぷり楽しめるステージだ。

ジャンゴ・ラインハルトの歴史とマヌーシュ・ジャズの現在、みたいなテーマは十分TEDの題材になり得ると思うのだが、どうだろう。さらに魅力的なマヌーシュ・ジャズのプレゼンテーション+パフォーマンスを期待したいところ。

ワルシャワで開催のオープンエア・ジャズ・フェスティバルFestiwal Jazz na Starówceにビレリ・ラグレーン登場。

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ポーランドの首都ワルシャワ。こちらで7月および8月の毎週土曜日に開催される国際ジャズフェスがある。"22 Międzynarodowy Plenerowy Festiwal Jazz Na Starówce"...とポーランド語だとまったく意味がわからないが、国際オープンエアジャズフェスティバル、ということらしい。20年以上も開催していく上で観客動員数50万人(!)というから、いかに規模が大きいかが想像できる。

地元ポーランドはもちろん、グローバルで活躍するミュージシャンも出演する。今年は、ステファノ・ボッラーニStefano Bollaniやウルフ・ワケニウスUlf Wakenius、ヘルゲ・リエンHelge Lienのトリオなど…そして、忘れちゃいけないのが、マヌーシュ・ジャズファンなら絶対知っているギタリスト、ビレリ・ラグレーンBireli Lagreneの参加だろう。最近は必ずしもマヌーシュ・ジャズの演奏とも限らないのだが、今回の出演は、リズムギターにホノ・ウィンテルステインHono Winterstein、ベースにウィリアム・ブルナールWilliam Brunnardを迎えた、Gypsy Jazz Trio編成になっていた。

演奏中のビレリが楽しそうなのは気のせいか。やはりこの人にはジプシージャズ、マヌーシュジャズの分野で活躍してほしいものだなぁ…。

大好きなディロッタ ス クバ Dirotta su Cuba(DSC)が9月に新アルバムをリリース予定!

Rossano Gentiliロッサーノ・ジェンティリとStefano De Donatoステファノ・デ・ドナートのユニットにボーカリスト、Simona Benciniシモーナ・ベンチニを加えたことで95年に大ヒットしたユニット、ディロッタ・ス・クバDirotta su Cuba。(キューバの海賊、みたいな意味合いなのだろうか。イタリア語はわからないので何ともいえないが…)。
たまたまフランスにいたせいか、当時ハマりにハマってしまい、以来ずっとその動向を追ってきた。"E andata così"に勝る楽曲はないと思っていたが、"L'iguana"という曲も良かったりして、「彼らの音楽にハズレなし」と確信を持ったのだが、それにしても新曲が出ない。もう過去の栄光に浸るしかないか…と思っていた矢先、耳よりの情報を入手した。

なんと、9月23日にブルーノートイタリア(ミラノ)から "The Studio Sessions - Vol.1"というアルバムを出すというではないか! 収録曲は過去の楽曲9曲に新曲3曲で、マリオ・ビオンディMario Biondiやファブリツィオ・ボッソFabrizio Bossoも参加するとか。こんな有名ミュージシャンと共演したら、もう、人気沸騰間違いなしじゃないかなぁ? 

シングルカットされた1曲"Sei tutto quello che non ho"には、ヒップホップのシンガーらしいMax Mbassadòという人も共演している。


DSCなんて略称も付けちゃっているみたいだし、夏のツアーの様子も動画でアップされている。

こんなに新アルバムのリリースが楽しみなアーティストは久々。すっかりテンションが上がってしまった。これは絶対に買おう。

フレデリコ・エリオドロFrederico Heliodoro。ブラジル、ミナス出身のベーシスト。

週末に久々にディスク・ユニオンを通りがかって、衝動買いした"VERANO"というCDがある。トリオのリーダーであるフレデリコ・エリオドロFrederico Heliodoroは、ブラジル音楽好きにはおなじみのギタリスト、トニーニョ・オルタToninho Hortaの出身地でもあるミナス・ジェライス出身のベーシスト。2007年頃からベロ・オリゾンチBelo Horizonteにて活躍、ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)にてMPBを学んでいるとか。ギタリスト、アフォンシーニョの息子でもあるとかで、注目株らしい。ほどよく複雑な、気持ちのいいメロディを奏でるなぁ。うっとり。

なかには尖りすぎて、いや曲が新しすぎてちょっとついていけないと思うものもあるが、たまたま入手したアルバム"Verano"は最新作ではないものの、好みの音が詰まっている。こちらの"Vida Nova Outra Vez"は、私の今年のベスト10に入るだろうな、確実に。

第36回 Jazz à Vienne 2016のジャンゴ・ラインハルト祭り

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今年は6月28日~7月15日までの日程で、フランスはイゼール県、リヨンから南に30キロほど下ったヴィエンヌVienneという町において、"Jazz à Vienne 2016"が開催されていた。18日間にわたって1000人ものアーティストが参加、200のコンサートが開催されるというフランスでは大きなジャズイベントだ。

ジャズ界のそうそうたるメンバーに混じって、当然マヌーシュ・ジャズもプログラムにきちんと組み込まれている。今年の目玉は、こちらだろう。ビッグバンド"The Amazing Keystone Jazz Big Band"によるジャンゴ・ラインハルトのレパートリー演奏だ。
イベントのアーティストコーディネーターも一押しの企画だ。もっとも、「ジャンゴの音楽がビッグバンド編成で演奏されたことはない」という点に関してはちょっと疑問を感じるが。だって、ヨン・ラーセンJon Larsenとかビレリ・ラグレーンBiréli Lagrèneがすでにやっていたよねぇ。

ただこのビッグバンドがすごいのは、ストーケロ・ローゼンバーグStochelo Rosenbergにアメリカのサックス奏者ジェームス・カーターJames Carter、トロンボーンのオデンソン・ロランOdenson LAURENT、それにアコーディオンのマリオン・バドイMarion Badoiも参加していることだろうか。マリウス・アポストルMarius Apostolの名前もクレジットされていた気がしたが、バイオリンはいないようだ。

コンサートのシーンからみるに、相当盛り上がったのだろう。
ちなみにこのライブが開催された7月6日は、はリヨンで活躍するマヌーシュ・ジャズバンド、Minor Singも出演したようだ。そして同日の夜はジェームス・カーター・トリオがジャンゴの音楽のレクチャーをするようなイベントもあったとか。ジャンゴ祭りの日があるジャズフェスなんて、さすがフランスだわ、と思った。

八木節をカバーしているミュージシャンたち

「渡良瀬通信」でみかけたので、さっそく調べてみた。

江利チエミ
www.youtube.com

宇崎竜童

エノケン

ブラスバンドでの演奏も。アレンジの解説までついている。

その他、動画が見つからなかったもののカバーしている人として挙がっていたのは、秋川雅史山本直純前田憲男中村八大板橋文夫、宗次郎、宝塚、ドリフ、初音ミク(以上、敬称略)など。なるほどね。

実は私が初めて八木節を知ったのは山中千尋のジャズバージョンだ。

テンポがあってリズムがはっきりしているからこそ、幅広く、それこそ初音ミクも演奏できるのだろうか。間違いなく魅力的な民謡なんだなぁ。

第53回 桐生八木節まつりで知った、「粋翔」大やぐらの特殊性

桐生八木節祭りとは、「八木節」と「桐生祇園祭」を中心としたお祭りで、関東三大夜祭りの一つらしい。「渡良瀬通信」というフリーペーパーの8月号によれば、桐生にはかつて多くの祭りを異なる時期に開催していたそうだが、昭和39年にこれを統一し、今のような形態のお祭りになったとか。なお、桐生祇園祭の方は1656年から実施していたというから、歴史は長いようだ。
「八木節」は、桐生のお隣り、栃木県足利市の堀込源太という人が、地元の念仏踊りを自己流の早い節回しにしたのがきっかけだとか。これが評判となって、レコード化されたのだが、「レコード録音のために短くしてほしい」といわれて、1コーラス7行で歌いきるように作り変えられたのが今の「八木節」だという。でも、実際には、桐生で主流になっている「7行の歌詞で自由に歌う」スタイル以外に、「語り節(テーブル音頭)」というのがあって、初代の堀込源太は語る方の節をやっていたそう。
「新保広大寺節」が八木節の祖だとか。確かに雰囲気は似ている気がする。

どうやら足利と桐生は「八木節はどっちのものか問題」でもめているようだが、「生みの親は足利、大衆化して育てたのが桐生」という理解でよさそうだ。


今年は、日曜日の夜まで桐生に居座って、最終日のすごさを感じてきた。五丁目の「粋翔」大やぐらはとくに盛り上がりが尋常でなく、FM桐生の屋上から写真や映像も撮影していたし、飛んでいるドローンもみた。でも、うずの中に入ってしまうと、踊りの円がどれだけ大きなサイズになっているか、もはやわからない…。これは、まるでだれかのライブかフェスのようだ。もう踊りというよりはその場で飛び跳ねるようになっていた。

ところで、今回の気づきは以下の歌詞についてだ。これは、笛がソロで囃しているときによく聴いていた合いの手だ。

小原庄助さん、なぜ身上(しんしょう)潰した〜
朝寝、朝酒、女が大好きで〜
それで身上潰した〜
あ〜もっともだ〜もっともだ〜
いいや違う、いや違う(アソーレ)
いいやそうだ、いやそうだ〜
やんちきどっこいしょ〜
祭りだ 祭りだ (桐生の祭りだ)♪

ところがなんとこの合いの手が入るのは五丁目のやぐらのみであることが今回判明した。本町二丁目の「宏龍」やぐらでは、二日とも小原庄助さんの名前は出てこず、やぐらによって特徴があることが判明した。お囃子と音頭のクオリティが高いが踊り手が少な目のやぐらもあれば、八木節は演奏せず御神楽のお囃子ばかり演奏しているところも。このバラエティの豊富さが桐生の八木節祭りなんだなぁ。来年行った時の楽しみがまた増えた。

祭りの後は、各町会がお会所にご挨拶周り。


こちらが過去の八木節の記録です。

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