ディビザデロ通り

ディビザデロ通り (新潮クレスト・ブックス)

ディビザデロ通り (新潮クレスト・ブックス)

著者は、アカデミー賞を受賞した映画「イングリッシュ・ペイシェント」の原作者であるらしい。そんなことを知らない私は、趣のある表紙と、目次に書かれた「マヌーシュ」の文字だけで、この本を読み進めようと決めた。

物語は、家族という枠組みの中で暮らすアンナとクレアという二人の女の子、そしてクープという青年が、「ある事件」を経て離れ離れになっていく課程を描くところからはじまる。そして、その後の3人の暮らしの中で、それぞれに生じた新たな出会いを通じて、また別の物語が展開する。

マヌーシュとは、フランスの北部あたりを中心に暮らす、所謂ジプシーのことを指す。アンナが後に暮らし始めたフランスで、心を開く青年・ラファエルがマヌーシュギタリスト、という設定であるため、ちょっぴりではあるが、「和音」を用いたマヌーシュ・スウィングらしき音楽や演奏の描写が出てくる。ファラエルは、「俺は練習はしない、ステージに上がるためだ」というジャンゴ・ラインハルトの言葉をかみしめつつも、ステージに躊躇し、だれもいないところで演奏をするのを好んでいる。アンナとの出会いにより、いつか、また曲を紡いで、人前で演奏するのだろうと予感させる。

もっとも、この物語の中であまり重要ではない部分ばかり気にしているのは、私くらいなものだろう。基本的に、この物語には官能的な表現が満ち溢れている。その関係は、ときに禁断とされるものまで。その表現はぞくっとするほど豊かなのだけれども、結局のところ、私はこの物語をひとつの塊として理解することができなかった...本の中が何かに分断されているみたいで、その中でつながっているだろう細い糸がたぐれなかったのだ。