日々の非常口

日々の非常口 (新潮文庫)

日々の非常口 (新潮文庫)

非日本人が、日本について書くエッセイは、興味深い。日本にどっぷりつかってしまった自分が気がつかない、新たな視点にはっとするのが常だ。

アーサー・ビナード氏の名前は、飛行機の機内誌にあるエッセイなどでお見かけしたような気がするが、詩人であることはこの本のプロフィール紹介ではじめて知った。イタリア留学経験を経て日本に住んでいる米国人が、日本語で書く日本語譚。ナイスな表紙も手伝って、つるりと購入した。

自国語である英語と日本語の訳語の違いや習慣の気付きが、小気味のよいリズムで刻まれていて、なかなかおもしろい。「度」という言葉がいかに万能ワードとして多用されているかと指摘したり、時差ぼけを示す"Jet Lag"という言葉が、飛行機以前の時代に何と呼ばれていたかに思いを馳せるなど、「なるほど」と思わせる観察が多く盛り込まれていた。一文一文の短さも、読みやすさを後押ししている気がする。そして、何といっても愛を感じる。風刺なども交えているが、日本という国に対する悪意はみじんも感じない。立ち位置が絶妙なのだろうか。

そうそう、数々の小噺の中に、「鈴虫をゴキと間違えて殺した話」があるが、私は、飼っていたコオロギをゴキと間違えて殺虫剤まみれにして殺したことがある。意外なところに仲間を見つけ、妙な親近感を覚えた。