倫敦から来た男


http://bitters.co.jp/london/

2007年 ハンガリー=ドイツ=フランス
原題;L'Homme de Londres
監督;ベラ・タール(Bela Tarr)

ノワール・サスペンスであり(ここでいうノワールの意味を理解していないのだが)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、ジム・ジャームッシュガス・ヴァン・サントが影響を受けており絶賛しているという売り言葉、「芸術作品としても評価されている」というあたりが気になって観た。

サスペンスとして観ると、ちょっと理解が難しい。ざっくりと、その港で何があったかはわかるのだけれども、そこにどういう背景があって、どんな形で当事者は殺されて、どのように解決されたのか、すべてはブラックボックスに収められており、私にはわからなかった。サスペンスと呼ばれる作品は、その謎解きの過程や背景、あるいは脇役が意外なところで関係してくるのを楽しみに観るため、それがわからないとなると、ねぇ。

一方、芸術作品というか映像作品としては、好みは分かれるだろうが、理解できる。「去年、マリエンバードで」の映像を観た時のような感触といったら、言い過ぎだと思うけれども。これでもか、というくらいのゆっくりゆっくりゆっくりとした、すべての事象をじわじわと、あるいはクドクドと、なめるような描写、出演されている俳優陣も一様に個性的で、要の人物たちの感情は、その表情を長く撮影することで表現されている。ショックを受けた人の目から涙が出る瞬間だとか、黙々とスープをすする瞬間だとか。

ジョルジュ・シムノン原作の小説は、1943年にもアンリ・ドゥコワン(Henri Decoin)監督の手によって映像化されているらしい。これをみると、また違う捉え方をしているかもしれない。