日本語が亡びるとき〜英語の世紀の中で(水村美苗)

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で


幼少時より米国で育つも日本文学に没頭し、イェール大学で仏文学を専攻後、作家として創作活動をしつつ米国の大学で日本近代文学を教えているという、特殊な語学環境にあった著者の、日本語の歴史と行く末に関する考察本である。

まずは著者自身の体験や出会いから、世界における日本語の位置付けを確認する作業から入るため、タイトルで受ける印象よりもぐっと読みやすくなっている。日本語が日本語として確立するまでの歴史も波瀾万丈なことがわかり、日本語が今の形で残っていることに奇跡を覚える。そして、西洋語への翻訳は、あくまでもあらすじのみを示すことしかできない、つまり、日本語における「同じ音をした同じ言葉を異なった文字で示すことから生まれる、意味の違い」が区別できないというのも納得だ。

多言語主義をもてはやしてみても、つまるところは「英語の世紀」であり、普遍語である英語が一人勝ちとなっている方向性は顕著だ。言語政策に注力するフランス語も、一時の隆盛はどこへやら、見る影もないし、巷では英語教育に過剰に熱心な人ばかり。日本語もいつ危機に瀕する言語になるやもしれない。そのことをどれくらいの人が認識しているのか。自分は母語の美しさを認識していたいし、それをきちんと守り、かつその魅力や存在意義を他国の人に伝える人でありたいと思った。