ポトスライムの舟(津村記久子)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)


芥川賞受賞作ということでその存在は知っていたが、ひょんなことからこの本を読み始めた。最近文庫化したみたい。このなかには、表題の短編ともうひとつの話が入っている。
主人公はじめ、登場人物はカタカナもしくはアルファベットなどで記号のように示されており、性別不明な感じだ。実際に読み進めながら、性別を探り当てていくような感じ。どちらの主人公も、うだつがあがらないというか、決してさえわたっているタイプの人物ではなく、ごくごく平凡な暮らしぶりだ。女友達との交流っぷりや、色々なタイプの先輩やら上司がいるオフィスの描写や、「世界一周を163万円でできる」という例のポスターから話が広がるあたりが、普通の人のリアリティに直結する。その世界が理解できるか否かは読み手によると思うが(男性にわかるんだろうか)、少なくとも今の空気を乗せた作品だと思った。