ヨーロッパ退屈日記(伊丹十三)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)


私が知る著者は映画監督としての著者だが、実は1961年に俳優としてヨーロッパに滞在していたようなのだ。小学校4年生の時、戦争末期に軍命で英語の英才教育を受けていたことや、俳優になる前はグラフィックデザイナーだったことなど、すでに著者のバックグラウンドに目がうろこだ。つまり映画監督なんて、彼のキャリアのほんの一部にすぎない、ということだ。
伊丹十三的美学に関するエッセイもあるが、大部分は英国や仏国などヨーロッパで暮らす彼が感じる比較文化論をまとめた本という感じ。少しでも海外暮らしをしたことがある人には、何かしら響くことがあるのではないか。
たとえば「あいづち」の話。リピートするだけでは芸がないので、こんな言葉をはさむとよい、というようなことだ。Really?/Not really./Quite./Certainly./Exactly./Indeed./I can't believe it!?/ etc.etc. 
本当、相槌やリアクションというのは苦労するので、よくわかる話。あとは、和製英語の話、日本人の子音に対する鈍感さとその弊害とか、米国流にrの発音をのどをしめるようにしてやることの品のなさとか、そもそも日本人にとって鬼門となるRとLをうまく発音する方法、など…。
音楽にからむ面白い話もあった。「朝だから"モーニング"が聴きたくなった」とつぶやいた色男がいたとかいないとか。

けだるい朝っぽさもなきにしもあらず…だが、実際は呻きを示すMoanin'なわけで。懺悔すると、私も勘違いしていた時期があった…。