夏時間の庭


(2008年、フランス、L' Heure d'été、監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
前情報一切なし。先日、マギー・チャンの映画を観たことからオリヴィエ・アサイヤス監督作品をチェックしており、タイトルが夏っぽい映画、というだけでこれを選んだ。
いかにもフランスの避暑地といった風情の素敵な家が舞台だ。パリ郊外ヴァルモンドワ(Valmondois)という場所らしい。ここで暮らす、いかにも育ちのよさそうな女性、エレーヌ。経済学者の長兄フレデリック、次男ジェレミーは中国在住、そして長女アドリエンヌもNY在住のデザイナーと、みんなそれぞれ独立して活躍している。そんな3人の娘が、エレーヌの元に集まる。エレーヌは、大叔父であるポール・ベルティエの作品や素描集、そしてポールが収集した有名な作品群と家そのものについて、もし自分がなくなったら、処分するように長兄フレデリックに頼む。フレデリックは、そうはさせないと約束するも、いざその状況がきた時に、兄弟それぞれの事情がそれを許さないことになる。
まずすごいのが、ポール・ヴェルティエ以外の有名作品がすべて本物であった、ということ。オディロン・ルドンやコローの絵、それにブラックモンの花瓶、ドガの彫刻のかけらなど、登場した作品がすべて本物だったということを後で知り、びっくりした。オルセー美術館全面協力の映画、というのはこういうところで協力したのだな。
そして、もうひとつすごいと思ったこと。それは、「オルセー美術館全面協力」にもかかわらず、映画の中に、暗に「美術館が芸術品を生活から切り離して陳列することへの皮肉」が込められていたようにみえたこと。ブラックモンの花瓶を、その価値もわからないまま、一番安そうで気を使わないからと選んで持ち帰った、この家のお手伝いさんこそ正義、というように見えなくもなかった。

夏時間の庭 [DVD]

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映画の主人公のひとつである素敵な一軒家のお蔭で、映画の雰囲気は素晴らしかった。フレデリックの娘のみが価値をかぎとっている家…、大人の事情は色々あれど、お金に変えられない価値というのは残さなきゃいけないと感じる私は古いタイプの人間なのかも。
ちなみに、ジュリエット・ビノシュ演じるアドリエンヌの彼氏は、カイル・イーストウッドKyle Eastwoodが演じていたことも、あとで知った。苗字でわかるとおり、あの有名俳優の息子だ。先日日本にも来ていたが、実際にパリ在住だし、アドリエンヌとNYに住む、というストーリーにしっくりくる気がする。