スプリング・フィーバー


2009年、ロウ・イエ監督、Spring Fever、中国・フランス

「こんなにやるせなく 春風に酔うような夜は 私はいつも明け方まで方々歩き回るのだった」
(郁達夫ユイ・ダーフ 1923年)

なんとなく過激な映画である、という前評判だけ知っていたが、しょっぱなからその理由がわかる映画だった。ワンとジャン、2人の浮気の場面、そしてそれを追う青年ルオ。ルオは、リンに浮気調査を依頼されているのだ。
リンは、浮気相手の職場に、夫と縁を切るよう迫ったことで、ジャンの秘密は職場に知れてしまい、ジャンは職場を辞めるとともに、ワンとの縁を切る。一方、ルオは、やはり尾行をするうちにジャンを好きになってしまい、リーという工場勤務の恋人がいながらもジャンを求めるようになる。そして、ジャン、ルオとリー、3人での旅が始まるのだ。
リンは教師という職業柄のせいか、(そして、もちろん夫であるワンをとられたという恨みもあるのだろうが)、ジャンやワンに厳しすぎる。それに比べて、リンは…リンだってショックは大きいだろうが、優しさを感じる。登場人物それぞれが、相手を思いやるあまり、あるいは自分の欲望を満たすためだけにとる行動に、こちらが苦しくなってしまう。すごく切ない、だれも満ち足りた顔を続けられない、恋愛映画だ。そして、これが中国で撮影され、国外に出ていることに驚きを覚える。
そういえば、第38回木村伊兵衛賞を受賞した菊地智子氏の作品を観にいったが、彼女の受賞作品はまさに、中国のドラッグクイーンたちをとらえた作品群だった。
第38回木村伊兵衛写真賞 受賞作品展 | コニカミノルタ
この映画でも、ジャンはその世界で有名な女装のスターということで、女装をして歌を歌ったりしている。今年春にみた写真と相俟って、この映画が中国社会のある部分を誠実にとらえたものなのだ、と実感した。
サントラもけっこう印象的で、音楽を探してみたところ、こんな具合ですべての音源をYouTubeから探し出してブログに書いている方を発見した。
【最新版】《スプリング・フィーバー》サントラ | COLORFUL
なかでも、ジャンとワン、2人が公園でダンスを踊っている時の曲が好きだ。映画ではもう少し「ズンチャ、ズンチャ」と2拍子に乗ったダンサブルなアレンジになっているが。内蒙古自治区の歌なのかな。

これまたちょっと哀愁を感じる。