文章読本(三島由紀夫)

文章読本 (中公文庫)

チボーテという人は小説の読者を「普通読者lecteurs」と「精読者liseurs」に分類したというが、この本はその前者を後者、つまり小説を深く味わう読者になるために書かれた本だという。自分が後者になれるかはともかく、今まで思ってもみなかった文章の読み方のヒントがみえてきて面白かった。
たとえば日本人は象形文字を知っているからこそ、文章の視覚的効果と聴覚的効果を同時に考えてしまう、とか、なるほど、という感じだ。著名な作家の文章も多く引用されていたり比較に使われてしていて、わかりやすいと同時に三島由紀夫の分析能力の高さに感心してしまう。
最後の方に、三島自身が文章を書くときに気を付けることがさりげなく書いてある。

  • その時代の考えや真実を尊重して、一度書いた文章をあとから訂正しない
  • 自然で平坦な文章に結び目を適度につくる
  • 二、三行のうちに同じ言葉が出てこないようにする
  • 文章に一貫したリズムを持たせる
  • 過去形に現在形をはさむことで文章のリズムを変えてみる
  • 10年読まれることを目指して、流行りの俳優などの名前を用いない

などなど。今現在の自分にとって一番納得のいく文章を書くのが良い、ということだ。
これを読んだからといって、文がうまくなるという類のものではなく、むしろ次に何か小説を読んだ時に、ほんの少しだけ文章の技巧に敏感になれそうな気がする。