ソウルのタクシーが大活躍。「A Taxi Driver(タクシー運転手 約束は海を越えて)」

2017年、韓国、 チャン・フン監督、택시운전사(タクシー運転者)

主人公のタクシー運転手、ソン・ガンホが演じるキム・マンソプは、シングルファザーで女の子を育てながら仕事をしている。決して恵まれている状態ではない。ある日、ドイツ人の男が光州Gwangjuに行きたがっていることを知り、高額な給料に魅力を感じて英語もできないのにその仕事を得る。ところが、光州に入る道は軍に封鎖され、ヘリも飛んでいる。実はこのドイツ人の男、Thomas Kretschmannが演じるピーターは報道記者であり、光州で起きているらしい民主化運動の取材を企んでいたのだった。
マンソプが、日々の暮らしに精一杯で、ドイツの男のことも煙たく思っているのだが、非常事態のなかで、光州の親切なタクシー運転手やデモをする大学生にふれるにつけ、どんどん気持ちが変わっていく様子がよく描かれている。さすがに、一人娘を1晩家に残したまま、ドイツ人の男をきちんと空港に送り届けるために敢えて戒厳令下の光州に戻っていく姿は、やりすぎではないか、と思ったけれども。
ストーリーは至極単純。非常にシリアスな話なのだが、登場人物が飄々としていていかにも市井の人という感じなのと、フィクション的要素が多く盛り込まれているそのおかげで楽しむことすらできる。

実話に基づく話だと映画の字幕にかかれていたので調べてみたら、1980年、本当に光州で民主化運動を軍が制圧し、かつその事実を報道統制や電話線切断で封じたというような事件があったようなのだ。そして、ユルゲン・ヒンツペーターJürgen Hinzpeterというドイツ公共放送ARDの記者が、この様子を撮影して世界に報道したことで、結果的に軍の暴力的な行動を暴き、結果的に民主化に貢献したということだ。ヒンツペーターはのちに韓国でジャーナリズムの賞も受けているようだ。もっとも、結局光州事件の真相は闇の中であり、この映画をきっかけにさらなる論争もあるようなのだが。
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事実はどうであれ、報道が世論に問いかける重要性を改めて認識できた。あと、「国際市場で逢いましょう」で、主人公のお父さんの役を演じていたチョン・ジニョンがまた出演していた。 脇役なのにやたら目立つなぁ、この俳優さんは。