"Newton"。とにかく真面目な、とある選挙管理委員の物語。


Amit Masurkar監督、2017年、インド

主役は、ラジクマール・ラオRajkummar Raoが演じる真面目な男、ニュートンNewtonだ。静かに正義感に燃えるニュートンは、選挙管理員に志願した。(正確には補欠だが。)そして、誰もが派遣を嫌がるような危険地域の投票所に派遣されるのだった。ここは、「ナクサライトNaxalite」と呼ばれる毛沢東主義派マオイスト)の武装集団が牛耳っており、最近も銃撃戦で人が殺されたばかり。
とにかく公正な選挙を行いたいニュートンはそんなことも意に介さない。インド軍を護衛につけ、面倒に巻き込まれたくないと願う地元の人を巻き込み、時に逆らい、無事に投票所を開設、選挙を遂行するのだった…。

ニュートンがある意味頑固すぎて、そこがコメディといえばコメディなのかもしれない。でも、どんなに茶番っぽくても、民主主義のために守らなければならない選挙がある。なのに、選挙をすることについてのハードルが高すぎる。そもそも、ヒンディ語すら通じず、村の住民たちは選挙のやり方だってわからないのに、地元ゲリラは選挙のボイコットを呼びかけている始末。それを思うと、登場人物のささいなやり取りもちっともコメディとは思えなかった。かといって、暗くもないというか、超シリアスというわけでもないのは、投票所の中の空気感のせいか。ニュートンの真面目さが滑稽にもうつる。なんだか不思議な映画だった。アカデミー賞外国語映画賞のインドからの候補作にもなった作品だという。普段世界の大部分の人々がイメージしているインド映画の印象を完全に覆す作品だ。

この映画で、私ははじめて「ナクサライト」のことを知った。そもそも、いまだに毛沢東はとうにこの世にいないのに、マオイストが活発なエリアがインドにあるということが驚きだ。そして、ナクサライトによるテロは2018年も何件か起こっているということも衝撃であった。それもこれも、インド東部が伝統的に開発が遅れた貧困地域であったことが関係しているらしい。カースト問題だけではない、インドの闇の部分をこの映画によって知ることができた。