家、家にあらず

家、家にあらず (集英社文庫)

家、家にあらず (集英社文庫)

時は江戸時代、女性だけが住まう奥御殿を舞台としたミステリー小説となっている。前回読んだ「吉原手引草」に比べると、けっこう複雑な場面設定で、読むのに苦労してしまった。だれがどの部屋に住んでいて、ここで殺された…というのを脳内で想像しながら読んだのだが、あとで本のはじめのほうに、家の見取り図があるのを発見した。見つけるのが遅かったようだ。

このタイトルは、世阿弥の「風姿花伝」にある「家、家にあらず、継ぐをもて家とす。人、人にあらず、知るをもて人とす。」という一説からとられているそうだ。そのタイトルとおり、「家」に象徴される家族やら血筋やらといった話が、物語の随所に表れている。家を大切にするあまりに人をあやめたり、命を落としたりする女がいる一方で、主人公の瑞江が、この時代らしからぬ気風の良さで、旧態依然とした家社会にたてを突くあたり、気持ちのいい展開だ。

もちろん、話としての歯切れの良さ、また奥御殿の華やかさを表す色彩豊かな表現は相変わらず。読めば読むほど味がでる、そんな本だと思う。