故・米原万里さんのエッセイはどれも切れ味がよくて好きで、何冊も読んでいる。とくに、彼女が育った東欧・ロシアの文化について、また、彼女の生業であった通訳業に関するエピソードは、どれも秀逸だと思う。このエッセイは、そんな彼女の食べ物に関するエピソードを集めたものだ。
タイトルになっている「旅行者の朝食」は、旧ソビエト時代に実在した劇的にマズイ缶詰の名前らしい。なんでも、「穀物系のでんぷん質と蒸し煮した何かの肉をペースト状にして合わせたもので、素材に何を使っているのか言い当てられない代物」らしい。ぐえっ。
もっとも、エッセイの大部分には、食べ物の美味なる側面がたくさん紹介されている。いろいろな物語に出てくるお菓子や食べ物を米原氏が目ざとく見つけ、その詳細を調べ上げる課程はおもしろい。なかでも一番気になったのは「点子ちゃんとアントン」に出てきた「トルコ蜜飴」というお菓子だ。そもそも、「ちびくろサンボ」に出てきたホットケーキと違って、この物語の中でとくに印象的なお菓子でもなかったと思うが、米原氏は、これが「ハルヴァ」というお菓子であることを突き止めた。「ハルヴァ」は、砂糖やはちみつ、サボンソウの茎根、穀物の粉、アーモンドのナッツ類や香料がふんわりと泡状になって、サクサクっとしながらも、口の中でとろけるような、そんなものらしい。多少彼女の書きっぷりに騙されているかも…と思いつつも、いつか「トルコ蜜飴」を食べてみたいものです。
- 作者: 米原万里
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/10
- メディア: 文庫
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