翼をください(原田マハ)

翼をください

翼をください


先日読んだ「コフィン・ダンサー」の登場人物に女性パイロットがおり、これに呼応するように女性パイロット、アメリア・イアハートの名前が出ていた。そういえば、我が家にも、世界一周飛行に挑戦するも太平洋上で失踪したイアハートの逸話をモチーフにした小説があったぞ、と遅ればせながら読み始めたのが、この本だ。

1939年、世界一周を世界で最初に果たした国産飛行機で、毎日新聞の社用機でもあった「ニッポン」は、その偉業にもかかわらず、敗戦によりその事実が歴史上から消されたという。この話に、イアハートの失踪を絡めた結果、史実の上に壮大なラブストーリーが乗っかった。

前半部、つまりイアハートをモデルにした登場人物、エイミー・イーグルウィングが国で英雄として祭り上げられた結果、利用されるような形で世界一周に挑戦するまでの章や、「ニッポン」が飛行するに至るまでの熱き新聞記者たちのやりとりがなされる章は、夢中になって読んでいた。が、完全に物語の世界となったニッポンの飛行中のストーリーは、前半部分があまりにもリアルだったためか、急にファンタジー味が強くなりすぎたように感じてしまい、あまり素直に楽しめなかった。

それでも、この著者のすごいところは、現代と過去、そして現実と虚構が入り混じるこの話の顛末を、最後美しくまとめあげたところだ。「ずうっとまえに、だれかをすごく好きになったこと、その気持ちが、今日までちっとも変らなかったこと。何もかも全部あんたに聞いてもらった。待ったかいがあったよ」とは、「ニッポン」やエイミーとの思い出を吐露した老人の言葉だ。繰り返し語られるメッセージの数々に、いちいちぐっと来る。

素敵で、夢や広がりがある本。この話の元になった人物たちやニッポンの本を読んでみようと思う。