- 作者: 江藤淳
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/06/09
- メディア: 文庫
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当時の若手文芸評論家・江藤淳のプリンストン大学滞在記。ロックフェラー財団の奨学金によりご夫婦でのアメリカ滞在を敢行したようだが、数ある困難に立ち向かって戦い、日本通の同僚たちに時にたてをつき、仲良くなった一家と親交を深め、学生と向き合う…と、そんな様子が、当時の米国情勢を交えながら書き留められている。
江藤氏が、自分について多く語らなかった時期は、周りにほとんど受け入れられなかったのが、英語に慣れて自分のアイデンティティを主張するにつれて、米国人に受け入れられていった…といいうところに、共感を覚えた。こんな経験、自分にもあるなと思って。
あと、印象的だったのは、日本の大学の権威主義の話。これは今も変わっていないのではないか。かつて日本には、異質なものを恐れず、すぐれたものを認める勇気があったと。だから留学生を派遣して、その知見を持ち帰った留学生は自己の発展につなげていったのだ。でも、今は大学もそういうものを容易に受け入れない結果、優秀な学者は海外流出を続けている。これは、未だにそうなのではないかな。
そういえば、耳の痛い一言も。今時の留学は、仕入れてくる新知識もなければ、国家のお役には経っていない、ということ。あくまでも自分が何かを得ただけだと。自分の留学における心境の変化を、当時の社会情勢とともに記録していて、その活動は明らかにその後の日本文学にも貢献している江藤氏にこう言われてしまったら、こちらは頭をうなだれるばかり。専攻していたからとはいえ、ただの語学留学なんて「留学ですらない」です。ハイ。