夫婦の一日(遠藤周作、著)

夫婦の一日 (新潮文庫)

夫婦の一日 (新潮文庫)


遠藤周作は、過去にも「沈黙」のなかで、日本人のキリスト教観が西洋のそれといかに違うか、ということを物語にしてきたが、この短篇集にも、そのことを大きなテーマとしている。たとえば、敬虔なカトリック信者なのに、占い師からの宣託や迷信的なものを捨てられなかったり、心のよりどころにしてしまったりするのも、その一部分であろう。で、結局信仰ってなんなんだろうか。わからんのう。

短編には、信仰心があついにもかかわらず、悪とか欲望とかエゴとか、そういうものも有する人の葛藤がよく出ていると思う。印象的なフレーズがこれ。

「神は悪人の上にも善人の上にも太陽をのぼらせ、雨をふらせてくれる」。つまり、私たちにはどの人が善人でどの人が悪人か、裁いたり決めたりする資格はない。だれだって他人の心の底はわからないし、善人にみえる人の本心も、悪人にみえる人の本心もわからない。それどころか、自分ですら自分の本心がわからない。それが見抜けるのは神のみなのだ。

典型的多神教の私だが、妙に納得、すんなり自分の中に落ちて行った言葉だった。