わたしが・棄てた・女(遠藤周作、著)

わたしが棄てた女 (講談社文庫 え 1-4)

わたしが棄てた女 (講談社文庫 え 1-4)


本書を他の遠藤作品と異なる、いわば軽小説と位置付ける見方もあるようだが、私にはそんなに軽いとも思えず、遠藤周作らしい一貫したテーマを追ったものに見えた。

初めの部分は、カトリックとの繋がりを見出だしにくいのだが、後半部分はカトリックとそこで定義される愛とはなにか、主人公の大学生、吉岡の人生と、彼が棄てた女、ミツの生涯を通じて描かれている。

印象に残ったパッセージ。
愛徳は、感傷でも憐憫でもない。私たちは悲惨な人や気の毒な人に同情するが、同情は本能や感傷に過ぎず、辛い努力や忍耐がいる愛ではない。

で、イヤミなく自然な形で、愛徳の行為ができるのが、理想ではあるよな、なんて思う。カトリック信者ではないこの主人公ミツは、汝、幼児のごとく非んば、との言葉どおり、素直に幸福を悦び、単純に悲しみに泣き、素直に愛徳を実践したと描かれている。私はといえばなかなかそうはいかないわけで。