「笛を聴く会」by 寺井久八郎@国立能楽堂


国立能楽堂に行ってきた。今年最終回となる寺井久八郎氏の「笛を聴く会」が行われていたためだ。

この会は、20年の間行われており、この日は10回目かつ最後の会となったらしい。月日のせいか、はたまた最後という節目のせいなのか、会場はほぼ満員で、非常に和気あいあいとした雰囲気。詳細なプログラムに加え、各曲目について寺井久八郎氏自らが解説してくださるため、それぞれの演目の特徴を把握することができ、演奏が楽しめた。寺井久八郎氏、自分の失敗などもトークで披露するなど、なかなかお茶目なお人柄のようだ。能管に関する基礎知識本をいただけたのも、ラッキーだった。

解説本によると、笛の世界は、能楽成立以降、とくに流儀差はなかったのが、江戸時代末期に森田初太郎9世と寺井久八郎9世により笛の音程を改革した結果、指扱いを細かく多用する演奏方法から、指扱いを少なくした分、力強くはっきりとした音色となる演奏法に改革したとか。以来この演奏法が受け継がれており、また、「笛の音に風の音を聴き、水の音を聴く」という言葉が森田宗家と寺井家に伝えられているそう。

芸能の世界では、何かと踊りの脇役に回りがちな笛だが、こうして舞台で笛だけを聴くという機会はとても貴重だ。楽譜もなければ、YouTubeに映像が残っているものも少ない。故・高松宮憲仁殿下がお好みになったという「羯鼓」や、津島神社で行われる「津島まつり」の祭囃子「津島笛」を取り入れたという「津島」などが印象に残っている。一番圧倒されたのは「中之舞」。笛の初心者がはじめに習う曲とあってシンプルだが、連続したフレーズのなかに些細な変化をつけることで魅せる曲であり、考えようによっては大変難しい曲だと実感したのだった。