- 作者: 佐野眞一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/05/10
- メディア: 文庫
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生涯16万キロも歩き、日本を隅々まで見続けた民俗学者、宮本常一のことを、ノンフィクション作家の佐野眞一氏が取材したのが、この本である。佐野氏が宮本氏のことを尊敬しすぎているせいか佐野氏が本の中で宮本氏と同化してしまっており、読んでいるこちらも、どっちの著作だったか一瞬わからなくなってしまう…そんな凄みがある本だった。
宮本氏は、まず観察眼が優れているだけでなく、聞き取り上手だったようだ。また、ただ人々の暮らしを記録するだけでなく、そこの暮らしがどうすればよくなるか、考える人だったそうだ。どんな暮らしでも公平な目線で見つめることができるのは、宮本氏のご実家がだれでもただで宿泊させる「善根宿」とよばれるものを運営したことがかかわっている、という佐野氏の分析には妙に納得だ。また、民俗芸能の復興にかける情熱もすごかったようだ。
なかでも、猿回しの話は印象的だ。漁業権も耕作権も与えられなかった地域で発展した「猿回し」を復活させるべく尽力したのも、宮本氏だったというのだ。その結果、今も猿回しは芸能として存在し、「周防猿まわしの記録」という映像記録も残った。
また、愛知県の名倉という村における座談会「名倉談義」という記録の一部も抜粋されていて、これが「生」を感じさせて面白かった。
次は、「忘れられた日本人」を読んでみよう。