ダライ・ラマ自伝(ダライ・ラマ著、山際素男訳)

ダライ・ラマ自伝 (文春文庫)

ダライ・ラマ自伝 (文春文庫)


友達が人から借りた本を託されたので、ちょっと目を通していたらハマってしまい、そのまま読み切ってしまった…それがこの本だ。
あのダライ・ラマ14世が自ら執筆した生い立ちから、中国によるチベットへの軍事侵略の様子、世界の著名な宗教指導者たちとの邂逅を書いたものだ。ハインリッヒ・ハラーという、このダライ・ラマ14世の子供時代をともにした登山家の本を元にできた映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」を観ていたせいか、そこでの描写と重ね合わせて、ますますこの本が面白く感じたのかもしれない。
本で読むダライ・ラマはなんというかとても人間くさかった。ちょっといたずらっ子だったり、勉強に気分が重くなったり。愛想のよい人に騙されそうになったり、逆に無愛想な人に好ましくない感情を持った後見直したりするあたりも、非常にふつうの人だ。でも、最高宗教指導者として、つねにチベットの人々のことを考えているということはとてもよく理解できた。
この人が1987年に提唱した、チベットをアヒンサー(平和や非暴力の意味があるらしい)地域化するための和平五項目案というのがあって、その中に「チベット高原における核兵器や武器製造の禁止と、核廃棄物の処理場化の禁止」というのがある。昨今の反原発にかかる運動で、チベットの国旗が掲げられるのをよく見かけるのだが、それはこのあたりと関係あるのかもしれない。
本の中でとくに面白かったのは「魔術と神秘について」という項目。一読しただけではきちんと理解できた感はないが、つまり精神的修行はとくに科学的根拠を超えるということだろう。そして、ダライ・ラマという人が、決して妄信的ではなく科学的な実験ということに深く理解を示していることは新たな発見だった。彼がダライ・ラマとして見出されるまでのストーリーも、この章を読んだ後だと納得してしまう。