第十四世マタギ―松橋時幸一代記(甲斐崎圭、著)

第十四世マタギ―松橋時幸一代記 (中公文庫)

第十四世マタギ―松橋時幸一代記 (中公文庫)


秋田県は阿仁比立内(あにひたちない)というところにて、代々マタギ(クマ猟師という理解でいいのか)を生業として暮らす家に生まれた松橋時幸氏にスポットをあてたお話。
彼自身の話をもとに脚色しているせいか、クマと遭遇した話など予想したほど臨場感はなく、たんたんとその人となりが書かれている。そんなに深堀りされていない印象だが、その分ふつうに人には読みやすいかもしれない。また、その友人や、マタギとはまったくご縁もないまま嫁いできて、コミュニティになじんでいく奥様の話などがあるため、多角的な視点でマタギの世界を知ることができる。
マタギはチームプレイであり、一人前になるまでには数々の通過儀礼(?)も存在する。ルールに則った狩猟をする一方で、松橋氏自身は魚のアメ流し漁(魚にとっての毒を自然素材でつくって川に流す漁法)やムササビ猟などにも才能を発揮していることがわかった。生まれながらにして、山に親しんでいる人ならではの才なのだろう。
奥様が嫁いだばかりのころ、早起きして夫のために梅干しのオニギリを作ったところ、マタギはゲンを担いでウメボシを食べないということでおにぎりを持って行ってくれなかったとか。マタギことば、という山の神様に失礼のないような言葉づかいもあるくらいで、それ以外にもたくさんの風習があったんだろうなぁと、今はだいぶ変わったであろうマタギワールドに思いをはせた。