ロンドンで本を読む(丸谷才一、編著)

ロンドンで本を読む  最高の書評による読書案内 (知恵の森文庫)

ロンドンで本を読む 最高の書評による読書案内 (知恵の森文庫)


丸谷才一氏の訃報に接した時、ちょうどこの本を手にしていた。途中まで読み進めていたこの本を再度読み直してみた。
まずは、英国の書評ってこんなに上質なんだ、という感動があった。内容をきちんと分析しているとともに、作者の過去の作品についても適宜引用・紹介しているあたり、書評だけでも十分に学びがあるし、楽しめる。ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」やカズオ・イシグロの「日の名残り」のように、何度も読んでいる本の書評は味わい深く、「ファニーヒル」や「ユリシーズ」など、まだ読んだことのない本は挑戦したくなる。オックスフォードの辞書やダイアナ妃のゴシップ本、マドンナの写真集の批評は、その批評手法にあふれるウィットに舌を巻き、紫式部の「源氏物語」や村上春樹遠藤周作北杜夫といった日本の作家の手による作品の批評を読んでは新たなきづきを与えられる。
丸谷氏は各批評に対してコメントをつけているが、これがまた鋭い見立て。印象的な丸谷氏の言葉を引用しておこう。
「対象である本を罵って読者に快哉を叫ばせるのが良い批評だと思っている人もいるけれど、(中略)、そういう本は取り上げる必要はない。大事なのは、読むに値する重要な本の重要性を、普通の読者に向けてすっきりと語ることなのである。」