歌舞伎〜過剰なる記号の森 (渡辺保)

歌舞伎―過剰なる記号の森 (ちくま学芸文庫)

歌舞伎―過剰なる記号の森 (ちくま学芸文庫)


歌舞伎にまつわる様々な言葉について記号論的に分析したもの。口上、見得、仁、肚、花道、ツケ打…はじめは難しい本だなぁと思って読んでいたのだが、どんどん面白くなってきた。あと、同時に、長年のナゾが解けたところもいくつか。
たとえば、「ジワ」という観客のざわめきを示す言葉について。歌舞伎には、観客の声なき声と、芝居好きのはっきりした掛け声という二つの反応があるというくだり。イコール、拍手という反応は本来なかったという話だ。最近、役者が出てくるたびに拍手という反応があるのだが、場合によってはとてもせわしくなくて、前からそうだったんだっけ…とちょっと疑問に思っていたので、その謎が氷解してうれしかった。
あとは、直接的ではない表現を用いる濡れ場の色っぽさの話。「殺し」と「斬り」の違いだとか、「首実検」の場面にみる、暗黙の了解だとか。もっとも首実検については、この間熊谷陣屋をみたからこそ、やっと謎が解けたというところか。
面白いところでは、「責め場」、つまり拷問の手法の中で、水責めや火責めまでは思いつくが、「琴責め」というのを知った。琴、三味線、胡弓を弾かせて、その乱れ具合でうそつきかどうか判断するというもの。いわば、楽器が嘘発見器になるというやつだ。「阿古屋の琴責め」、一度みてみたい。