シモネッタの男と女~イタリア式恋愛力~(田丸公美子)


米原万里さんの著書の中に出てくる、シモネッタことイタリア語通訳田丸公美子さんによる短編集。"恋愛力"に惹かれたというより、彼女のエッセイが面白いという評判をどこかできいたので、著書名に惹かれて買ったという感じだ。
彼女が通訳の仕事をするなかで出会った個性的な人々6名(うち生粋イタリア人4名、イタリア的日本人1名、日本人1名)の話だ。本当に実話なの?というくらい、仕事で出会った人の生い立ちなどを十分把握した上での緻密なストーリー展開と美しい描写力にのめりこんであっという間に読み終わってしまった。そもそも、通訳という仕事で出会った人から、私生活も含む深い話を引き出せるというのがすごいのではないか。
でも、何よりも予想外でかつ涙してしまったのが、「はかなき露の字に代えて」という、亡くなった米原万里さんとの出会いから別れまでを綴った短編だろう。親友でないと気がつかないような、友人の小さな健康上の様子の変化に気が付き、ひそかに涙しつつも、得意のウィットで応酬する田丸さんが、かえって悲しみを誘う。深い友情なくしては書けない、最高の追悼文となろう。
本の中に、米原さんが「週刊金曜日」に寄せた字のことが出てくる。「坂」登るときには希望があって、降りるときには…勇気がいる。まっすぐで平坦な道は退屈だ。私は起伏にとんだ道が好き。というもの。
この本に出てくる登場人物、すべて、登りだけでなく下りまで書ききられている。だから、イタリアの恋愛!というはじけた印象と裏腹に、色々考えさせられる内容になっているのかもしれない。