「柿葺落七月大歌舞伎」

f:id:asquita:20130722150251j:plain
通し狂言「東海道四谷怪談」をみた。四谷怪談ときくと、怪談話なだけにホラーなイメージとともに、"女性が世を恨んで亡霊として出てくる"という点で「番町皿屋敷」とごっちゃになってしまい、何だかよくわからない…という程度の、なさけない理解度。ほとんど何の知識もないまま、鑑賞に入ってしまった。
そもそも、こんな超大作だったのだ、ということが驚きだ。お岩が化けて出るようになるまでの話と、彼女を取り巻く人物関係が、前段部分でうまく説明される。背景を理解していないとわかりにくい部分もあるため、途中でパンフレットを購入しに走ったものの、全体的に大変わかりやすい。
民谷伊右衛門を演じた染五郎さん、ものすごく嫌な男だけれども色っぽい、かっこいい!! そして菊之助さんは、3役をこなすとあって大忙しである。菊之助さんの役の一つでもあり、話のメインとなるお岩は、隣家の策略により薬を飲んだ結果、醜い容貌になっていく。落ちぶれた武家の暮らしぶりの上に、崩れた容貌ということで、いつもの菊之助さんの華やかさはないものの、「滝野川蛍狩の場」では、回想シーンということで美しい姿をみせている。それでも次の瞬間怨霊になったりするものだから、目が離せない。お岩、そして民谷家に伝わる妙薬を盗んだということで閉じ込められた挙句、いわれのない罪により殺される小仏小平の亡霊が交互に出てくるシーンは、一人が演じていることを考えると、もはや謎にしか思えない。そして、お岩の亡霊がこれでもかと伊右衛門に復讐をするクライマックスは圧巻だ。このクライマックスの不思議かつ度肝を抜かれる仕掛けは、何と昔からこうだった、という話にさらに驚いた。歌舞伎って当時から素晴らしいエンターテインメントだったのね。
こちらの動画は、昭和31年の上演風景らしい。仮に説明どおりの年の上演だとすると、お岩が歌右衛門さん、伊右衛門が当時の幸四郎、つまり染五郎のおじいさんによるものだろうか。これをみると、基本的な舞台装飾が現在とほぼ一緒であり、歌舞伎の演出というのが伝統的に受け継がれているものだ、というのがよくわかる。

今回、女房おいろ役で出演されていた、中村屋最高齢のお弟子さんとして人気の中村小三山さんあたりなら、前回の上演の様子もよくご存知なのだろうか。
そういえば、いわゆる幽霊が出てくる音というのが、能管で表現されていたのには新鮮だった。ひゅるるるるぅ~ってやつだ。音の演出も印象的だった、ということだ。