新作能舞 三酔人夢中酔吟―李白・杜甫・白楽天―改訂版公演@国立能楽堂

久々の能楽鑑賞。素人の感想をここに。
■琵琶三秘曲―流泉・啄木・楊真操(岩佐鶴丈-楽琵琶)
そもそも琵琶ってボディがふくよかなものと思っていたら、こんなにうすいものがあるんだね。調弦の関係で曲順に指定があったのだが、琵琶の調弦って大変なものなのだろうか。三味線みたいに弾きながらばしばし調子を変えていく楽器ではないのだろうな、きっと。
これらの秘曲は秘伝過ぎて一度伝統が途絶えてしまったものを、平安時代末期に藤原師長という人が楽譜に書き残したものを復元したらしい。
「啄木」という曲は、途中でボディをカツカツたたく演出があった。だから啄木なのかしら。「流泉」と「楊真操」は、「啄木」のような特徴はみられなかったが、いずれも意外にシンプルな曲で、難解なフレーズもなくて予想外だった。
遣唐使が唐で習って楽琵琶とともに持ち帰った曲が数々の有名人の手を経ていまに生きるなんてすごいことだと思う。琵琶をひく昔の人なんて百人一首に出てくる蝉丸とか耳なし芳一のイメージしかないのだが、その蝉丸もこの秘曲を受け継いでいたなどときくと、歴史のロマンを感じるのだ。
ところで「返風花調」とか「風花調」って、なんのことなんだろう。琵琶特融の調子?

新作能舞「三酔人夢中酔吟―李白杜甫と白楽天―」
野村四郎(李白)、櫻間金記(杜甫)、山本東次郎(白楽天

設定としては、まさに唐の時代の格好をした李白杜甫・白楽天が、昔を懐かしみながら、延々と酒を酌み交わしつつ昔語りをしている、というものだ。使われている楽器が、能管、尺八(ものすごく長いものと短いものを使い分けていた)、それに打楽器(ビブラフォンみたいなものと、銅鐸がいくつか並んでいるようなものを適宜使い分けていた)だったのだが、それだけでかなり作品の印象が違って、面白かった。しかも詩人の共演という設定なので、その台詞にいちいち色気があって美しい。遣唐使の時代を懐かしんだり、「今や自分たちの詩は日本でも受け入れらて、自分たちもまぁまぁ有名なんだぜ」と話してみたり。お能はそもそも時空や生死などの境目があいまいなものだと思うが、この作品も、まさに時空を超えてしまって登場人物が語り合うというシュールな作品だった。とくに山本東次郎氏の声が非常に明るく若々しく印象に残っている。何よりも、80歳をとうに超えた人間国宝の二人(野村四郎と山本東次郎)が、こうした新作を追及しようとするその心意気に感激した。台詞もかなりの分量だし、生半可な気持ちでは演じることができない作品だよなぁ。

今回の公演は大盛況だった。笠井賢一氏の解説も丁寧で理解の助けにはなった。でも、もう少し能の古典の知識が必要だったな。あとは唐の詩人たちのプロフィールなども知っておけばよかった。李白ってあの中島敦山月記の元を書いた人だ!と思って調べたら、あれは李微だったのはいい思い出だ。