美術の解剖学講義(森村泰昌、著)

美術の解剖学講義 (ちくま学芸文庫)

美術の解剖学講義 (ちくま学芸文庫)


この本は、本物とは何か、いいアートとは何なのか…そんな初歩的な疑問を通じて、美術のおもしろさをわかりやすく解説する、というものだ。なかでも、「写真論」のなかで、アンリ・カルティエ=ブレッソンの代表作の数々を事例として、その作品にあるツインのイメージを探すという試みはおもしろかった。ブレッソンの写真、何度も見たことがあり、その決定的瞬間をわかったつもりでいたのに、私は全然わかっていなかったのだ。そこには、美術の解説書や美術館の説明が来ではみたことのないような分析があって、目からウロコだった。

森村泰昌氏といえば、絵画の中の人や有名人になりきってセルフポートレートを撮る、という作品群が有名だが、彼が絵画の中の人になりきることで発見した事実もたくさんあって、面白い。今まで、森村氏は単なるコスプレ好きの現代芸術家だと思っていたのだが、彼のアートが、実はたくさんの知性や観念や思想に基づくものだったことに驚いた。

美術って古典なら格調高くて格式ばったイメージ、現代モノなら、イマイチ発想がわからないなぁ、なんて思いながらみていることが多いが、森村氏の解説をきいたら、美術をもっと気負わず、もっと自由な解釈で楽しめるようになるに違いない。