猫の客

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)

詩人である平出隆氏の、猫との出会いから別れまでを描いた物語。読み進めるに従って、織り成されるきめ細やかな情景描写ややさしく清らかな空気感にどんどん引き込まれていった。「爽やかな読後感」とは、こういうことを言うのだろう。

作者とその妻の、隣人たちや隣人の猫との距離の取り方に、日本らしさがにじむ。かかわりすぎず、それでもいつも慮るような、ふわっとした関係性といおうか。四季の移り変わりが、虫や花、暦上の行事などで表現されるあたりも、日本人である自分を思い出させてくれる。

これだけ日本的な空気を纏った小説が、2009年3月現在、文庫版だけでも2万2,950冊も売れているというのだから、おもしろいものだ。純粋に、どのような訳がなされたのか、おのずと興味がわいてくる。

本書の解説およびフランス語版の翻訳を手掛けた、末次エリザベート氏がフランスにおける書評などをもとに分析したところによると、この作品が、一種の俳句小説として読まれているとのこと。ということは、きちんと詩的な空気を保ったまま、訳出されたということであろう。フランス語での本書タイトルは"Le Chat qui Venait du Ciel"、つまり「空からやって来た猫」とのこと。いつか、入手して読んでみようと思う。