ジャズの聖地、一関「ベイシー」にて、幸せジャズ喫茶体験。


前々からここに来てみたかったのだ。

ジャズ喫茶というのはおしなべてどこもスピーカーにこだわっている。この「ベイシー」はその中でもとくに音がいいと評判だときいたから。さらに、店主である菅原正二氏は何冊か本も出したり新聞にコラムの寄稿もしている文筆家でもあり、タモリの大学時代の先輩でもあるとか。雑誌SWITCHの特集「ジャズタモリ」では、タモリがこの「ベイシー」を訪れて二人で延々と話し込んだりしたらしい。往年のジャズミュージシャンも愛して訪問したというこの音を一度聴きたいという思いで訪問を決めた。


開店が午後一時とのことだったので、朝9時頃東京エリアを出発し、お昼前に一ノ関駅に到着。ランチで腹ごしらえをしてから、13時過ぎにお店へ向かった。すでに何人かお客様がおり、私たちは壁に埋まったJBLスピーカーの真ん前の席に通された。ガンガンに流れるBud PowellのParis Sessions、Miles DavisのSketches of Spain。店主らしき方はお店の奥の書斎のようなところに座ってて、3曲くらいごとにレコードをこまめに変える。ジャズのDJみたいな感じだ。私が意識してジャズを聴き始めた時から大好きなBill Evans Trioの"Waltz for Debby"がかかった時には、 息遣いも聴こえてきそうなサウンドを正面から浴びて、涙が出そうになった。座っている椅子にはミュージシャンの名前が刻まれ、目の前のドラムにはあのJimmy Cobbのサインが大胆にかかれている。もしかしたらここでJimmy Cobbが、Elvin Jonesが、そしてCount Basieが、同じ空気を吸ったの違いないのだ。グランドピアノの上には一輪のバラの花、薄暗い照明、壁にはレコードがきっちり詰まって…その雰囲気がまた素敵だ。

この場にいられただけでも幸せだったのだが、ひょんなきっかけで菅原氏や地元の常連のお客様等とも会話を交わす機会をいただいて、さらに幸せな気持ちになった。マスターが選んでかけてくださった曲を私が喜んでいるのをみて、店員さんも喜んでくれる。「マスターって勘が鋭くて、お客さんが聴きたい曲とか好きな曲を選び出すのが得意なんですよー」って。マスターは、クラシックな原稿用紙とモンブランの万年筆を片手に、「原稿が進まないよ」と嘆きながら常連客との会話を楽しんでいる。何よりもマスター自身がこのお店の空間を楽しんでいる。だから、このお店は素敵を保っているに違いない。

おしゃべりを一切せずに集中した音楽に向き合うジャズ喫茶も好きだけれども、他愛のない音楽や文学の話をしながら音楽を聴くのもまた好きだ。久々にジャズ喫茶に魅力に触れることができて、うれしくなってしまった。語りつくせないくらいくらい素敵な思い出がたくさんできた。エピソードは心の中に大事にとっておきながら、次の訪問を狙おうと思う。次回は、マスターに伺ったベイシーを堪能するためのTIPSをきちんと守って…ね。

ジャズ喫茶ベイシー - LIVE AT BASIE PROJECT