岩手県一関市にあるジャズ喫茶「ベイシー」の店主、菅原正二氏を中心に、ジャズに限らず活躍している様々な方々の貴重な映像やインタビューで構成されている。「映画」という観点からみると、ストーリーからの脱線も多くて疑問が残る人もいるかもしれないが、ジャズやジャズ喫茶ファンにとっては非常に面白い映画だと思う。
出演する方がとにかく豪華。菅原氏と深く交友があり、店内にサインや特等席のイスもあるエルヴィン・ジョーンズやカウント・ベイシーの出演は予想の範囲だったけれども…。なんとなくフリージャズがお好きな方なんだろうとは思っていたし、坂田明氏や村上"ポン太"秀一氏が定期的にベイシーでライブをやるのは知っていたが、阿部薫の演奏をここで観ると思わなかったし、SAXのペーター・ブロッツマンPeter Brötzmannとポール・ニールセン-ラブPaal Nilssen -Loveのデュオのライブも、「へえベイシーでやったんだなぁ」と感心した。(ちなみに、ブロッツマンとニールセンン-ラブのライブのお客が男性ばかりだったのに対し、渡辺貞夫氏ライブの観客がほぼ女性ばかりだというのはおもしろい対比だった)
インタビューに登場する有名人たちも、それぞれ「音へのこだわり」を語るのだが、「DUG」の中平穂積氏が、"NYで実際にみたビル・エヴァンスの音が細く繊細な音だったこともあり、大きな音が必ずしも正義とは思えない"と話していたのに引き換え、菅原氏が「大きな音だと思っていても、音に集中するとまるで「瀑布の裏側」のような静寂がある」というようなニュアンスで語っていたのは印象的だった。あとは、ナベサダが、サックスのリガチャーにこだわり、それを変えて比較しながら延々と吹いている姿をみて、売れっ子サキソフォニストも実はこだわりの人だったんだな、という一面を再確認したり。もう一つ思ったのが、菅原氏が人ったらしなんだろうな、ということ。まあとにかく有名人が色々出てきて、(まあ中には「この人映画に出てくるほど菅原氏と交流あるの?」って人もいたが)、なかでも安藤忠雄と小澤征爾が出てきたのは、意外性もあり面白かったな。世界のオザワが語る「クラシックとジャズの関係」、そして、山本直純氏の名前がでてきたのも、なんだか嬉しかった。
何かの記事で読んだところ、「星野哲也氏が監督して5年×150時間分の映像を撮り続けたが、制作体制が不十分だったことから、ベテラン映像編集を紹介した。その紹介者が、監督の経営しているバーの常連客で、名プロデューサーとして実績もある元フジテレビ社長の亀山千広氏だった、ということらしい。「あんなに交流ありそうで、雑誌の取材も一緒に受けているタモリさんが一切出てこないのはなんでだ」というようなことを思う人もいそうだが、これはこれでいいのだろう。
すごい素敵な空間だったから、菅原さんがお元気なうちにまた訪れたいなぁと思う。
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