- 作者: 沼野充義
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1996/03
- メディア: 新書
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ロシア・ポーランド文学の専門家である著者のエッセイ集。イディッシュ語とヘブライ語の力関係の話とか、アメリカで横行するポーリッシュ・ジョークの話をはじめとしたエスニックジョークのことなど、あらゆる言語のあらゆる小噺がちりばめられている。
英語が絶対だったり、バイリンガルがカッコイイと褒めそやされる日本において、ちょっと違う角度からみた言語のエッセイっておもしろい。なかでも、ハイネの詩の翻訳方法に関するエッセイ「松と椰子の非恋」の章が一番のお気に入り。そうか、ハイネは、ドイツ語の名詞が包含しているジェンダーにまで配慮して松と椰子の詩を詠んだのに、これがフランス語やロシア語となると、その目論見を詩に込めるのはできなくなる。ましてや名詞にジェンダーのない日本語や英語となった日には…。詩の翻訳というものがいかに難しいか、ということだね。
著者のあとがきがけっこうじんときた。曰く、「結局人は死んでも言葉は生きる。そして、言葉への愛も。」各章にみられる著者のひそかな言葉遊びに、言葉への愛を感じたのであった。