2017年、日本、河瀬直美監督

主人公は、水崎綾女が演じる映画の音声ガイド、美佐子。ある映画作品にガイドを付けて、それを実際に視覚障がいを持つ方の前で音声ガイドがきちんと伝わっているかどうかテストしているところに、辛辣な意見を寄せる人がいた。それが、永瀬正敏演じる、有名写真家の中森だ。
美佐子は、中森との出会いをきっかけに、仕事への向き合い方を見つめはじめる。

主人公をのぞく出演者たちの自然さが、河瀬作品のいつものことではあるが、とても心地よく感じる。そして、美佐子の声、まなざしがとても映画の雰囲気にあっている気がした。永瀬正敏は、前作の「あん」同様、こころに陰を持つ人物を違和感なく演じている。ラブストーリー…いわれてみればそうかもしれないが、そんなことよりも、かつては名をはせた有名写真家が、いずれ視力を失っていくその苦しみが痛いほど伝わってきて、泣けてきてしまった。

音声ガイドを付ける仕事の現場も(どれだけリアリティのあるものが映画で紹介されているかは不明だが)、興味深かった。こんなふうに丁寧に丁寧に配慮しながら、突き放しすぎることなく、かといっておせっかいに登場人物の気持ちを説明しすぎることなく、視覚障がいの方が画像を楽しめるような配慮をたくさんしているんだろうな…。
あん - 空間Annex