ピアニスト、ピーター・ビーツ Peter Beetsは、オランダのハーグ出身で、日本にもよく来日している有名ピアニストだ。ご両親も音楽に携わっており、The Beets Brothersとして2人の兄ともジャズトリオを組んでいる。ピアノトリオが好きなら、名門ジャズレーベルCRISS CROSSからリーダーアルバムを多くリリースしている彼にピンとくるだろうが、他にもオランダのビッグバンド、Jazz Orchestra of the Concertgebouw (JOC)にも参加したり、"Peter Meets..."というシリーズではショパンやガーシュインを自分の解釈で演奏するアルバムもリリースするなど、その幅広い活動が魅力的だ。
マヌーシュ・ジャズ好きとして注目したいところは、ピーター・ビーツとマヌーシュ・ジャズの関係だろう。実はピーター・ビーツは、同郷オランダのマヌーシュ・ジャズアーティストとも懇意にしており、たとえばDjango Reinhardt NY Festivalにドラド・シュミット Dorado Schmitt をはじめとした大物ミュージシャンや、ストーケロ・ローゼンバーグ Stochelo Rosenbergとも出演している。Stocheloはもちろん、ギタリストのパウルス・シェーファー Paulus Schäfer のアルバムにも参加していたこともある。
そんな彼がジャンゴ・ラインハルトのトリビュートライブアルバムを出したことを最近知った。昨年2月にリリースされたらしい。
Beets Meets Rosenberg: Django Tribute
アルバムの音源は、2018年10月26日、オランダはベルゲンの教会で行われたライブらしい。ピーター・ビーツ本人のアカウントがそのライブの動画をアップロードしているのを発見した。
ピアノが絡むことで、ジャンゴの曲に新たな命が吹き込まれていた。
アルバムリリース後の2019年、ピーター&ストーケロコンビは一緒にツアーをしていたようだ。こちらは、ロッテルダムのライブ会場デ・ドーレンDe Doelenで行われたライブの様子だ。
ピアニストが筋道をつくってリードする"Les jeux noirs"。アルバムにも収録されていなかったが、あれだけのジャンゴスタンダードを一緒に演奏していた二人なら、なんてことなくこなすだろう。
ところがこのコンサート、マヌーシュ・ジャズにはとどまらなかった。ジャズスタンダード、"In a sentimental mood"の主旋律をストーケロのギターソロで…ストーケロにはなんてことない話だろう。
でも、これには、驚いた。ショパンの夜想曲16番(Nocturne F Minor)をマヌーシュ・ジャズアレンジで演奏する、というものだ。いやぁこれはすごいな。かっこよすぎて鳥肌が立つ。ショパンの中にちょっぴりCaravanとか混ぜてくるんだから、恐れ入ります。
この二人の芸術的相乗効果は、前のアルバムでは表現しきれていないのではないか…とつくづく思うのであった。