あなたがいてもいなくても(広谷鏡子)

あなたがいてもいなくても

あなたがいてもいなくても

活字中毒者は、手元に本がないととっても不安だ。先日、手元に活字がないという理由で本屋に立ち寄り、ふとこの本のタイトルが目に留まって、衝動買いしたうちの1冊だ。この本は「あなたがいてもいなくても」というタイトルをみて、U2の懐かしい曲"With or Without You"を思い出していた。当時は歌詞の意味も知らずに聴いていたが、実はこの曲、相当切ないと思うのだ。

この小説もけっこう切ないドラマチックな話だった。主人公の女性、倫子が偶然出会った、妻子ある男性とのディープな恋愛と、彼の病による死までの4年間弱にわたる関係の中での、心境の変化を時期を区切って描写したもの。妻子ある男が、亡くなった後に妻にあてた遺書を偶然読んでしまったことで、彼女は相手が、自分の人生のなかで深くかかわった2人の女性に対して、それぞれどんな思いだったのかを悟る、という話。よくある不倫を描いた小説といえば、たとえば「失楽園」のようなものを思い出すのだけれども、官能的な描写がないところが逆にリアルだ。また、男が亡くなった後、彼女が男に宛てた手紙を入手して、その内容をみながら過去の心境をふりかえっていく、というのがまたちょっと古風でよかった。
一般的に純愛は悲劇が多いけれども、救いは、"With or without you, I can't live"というU2の曲のオリジナルの歌詞と異なり、「生きていける」つまり"I can live"であると彼女が結論付けたことだろうか。
なお、この曲は何かとロックの名曲が出てきたのも印象的だった。私は歌詞至上主義でもないので、ロックの名曲で思い入れがあるものは少ないのだが、これらの曲も何か深い意味を持つのだろうか。今度じっくり聴いてみようと思う。