1999年、張芸謀(チャン・イーモウ)監督、我的父親母親(The Road Home)
舞台は中国の美しい村。青年は父親の訃報をきき、久々に故郷に戻ってきた。青年は村で唯一大学へ行ったという。その父親は村の小学校で教師をやっており、新しい小学校の建設に必要な金を工面してまわっていた帰りに心臓病が判明、なくなってしまった。母親は、父親の遺体を伝統にのっとって手で運びたいと願うが、それをやるには冬で季節も厳しく、若者はみんな村の外で出稼ぎにいってしまって人手もないから難しい。青年は村長に頼まれ、母親を説得にかかろうとする。その母親が若いころの父親の出会いには、いつも村に続く道があったのだった。両親の出会いの物語を思い出しながら、青年は伝統のやり方で父親を送ってやることを決意するのだった…。
チャン・ツィーが、母親ディーの若い頃を演じる。昔、中国の農村の写真集でみたような古い農家で、目の見えない母親と二人暮らしをしているディーは、ある日町からやってきた小学校教師にまさに一目ぼれ。当時はまだ自由恋愛が許されていないなか、彼のためにご飯をつくり、「赤が似合う」と言われればいつもに増して赤やピンクの服を着るようになり、(おしゃれとはいってもモコモコの綿が入った作業着なのだが。)、彼を一目みようとわざわざ遠くの井戸に水を汲みに行ったりしてけなげなのだ。しかし母親は、身分違いの恋はがっかりするだけだからやめなさい、と諭すのであった。
自分の初恋なんぞもはや記憶にもないが、初恋ってこんなだよなぁと思わず納得するあらゆる事象が込められている。服に似合うといわれたものは身に着けて、それをなくして探し回って、彼がうちでご飯を食べていくようにほぼ強引に説得する。偶然を装って小学校をウロウロし、母親の静止を押し切って、町から戻るであろう彼を待ち続ける、など。この全力さ、そしてフレッシュさは、この時代のチャン・ツィーじゃないとはまらなかった役どころだったと思う。村の四季折々の風景も、実際の貧しさを封印してしまうくらい美しい。
年老いてしまった母親がこの時の恋する気持ちを忘れずに、先生を尊敬し愛していたことが映画でもよくわかって、それがまた切なかった。若いころの描写がカラーで、現在の描写がモノクロで表現されているところがまたなんともよい。たった1時間半に素敵な気持ちになれる要素がつまった作品。もう20年も前の映画なんだなぁ。