二月大歌舞伎「奥州安達原〜袖萩祭文(そではぎさいもん)〜」(第三部)@歌舞伎座

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今年初めての歌舞伎座における歌舞伎鑑賞だった。今回の二月歌舞伎のすべての講演の中で、一番興味があったのは玉三郎仁左衛門による「神田祭」だったのだ。華やかそうだし木遣りとかきけるし、何よりめでたくていいなぁと思っていたのだ。ご縁あって行った今回の第三部、本当に「あたり」だった。
第三部は十七世中村勘三郎の「三十三回忌追善狂言」ということだったが、そこに中村屋の一門が大活躍であった。まず奥州安達原。冒頭は雪の中登場する貧乏に身をやつした七之助演じる袖萩とその娘、お君。お君を演じるのが勘太郎の次男、長三郎なのだが、単なる子役という役回りではない。台詞回しもあったり、体調が突如崩れた袖萩を衣を脱いで気遣うようなちょっとした演技もあったりして、感心してしまった。あまりにも切なくて、その健気さに涙が出てきてしまったくらい。途中、盲目の三味線弾きという設定の七之助義太夫の人と合わせて本当に三味線を弾いていたのにもびっくり。どれだけお稽古つけるとあそこまで演奏ができるのか。登場人物二名が同時に切腹する場面、現代劇なら「君の名は」みたいに時空が変わってしまうようなことになるのかもしれない、と思っていた。勘九郎が演じる安倍貞任の、公家から武家に変わる変化の落差にはテンションがあがった。そして束の間の親子が通わせる情愛..が本物の兄弟と親子で行われているというのがまたなんとも良い感じだ。話題の芝翫が演じる宗任、華やかで目立つものだなぁ。

連獅子は中村屋の御家芸という感じで、テレビでは何度も見たことがあるのだが、まさか勘九郎の息子、9歳の勘太郎があんなに達者な気振りや舞を見せるなんて...ぞくぞくした。体はまだ子供だけれども、子供らしからぬ堂々としたものだ。きっと厳しく指導されたんだろうな。奥行きのある舞台でみていると谷底と山の上、という異なる場面のコントラストがうまく描かれていて関心した。これまたなんだか謎の感動が。きっと中村屋の家族を追ったドキュメンタリー番組をみていたせいもあり、一家の軌跡を知った気になっているせいかもしれない。このまま成長したら勘太郎、大化けするのではなかろうか。
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