能・義太夫・歌舞伎謡がたり「隅田川」@すみだトリフォニーホール

まったく知識のないまま、こちらの舞台を鑑賞した。キーワードは「梅若伝説」で、テーマは「母の子に対する無性の愛」。なんでも、梅若丸を人買い(!) にさらわれた母親が、子供を探して京都から隅田川にたどり着くが、そこで子が亡くなったことを知り、埋葬された塚の前で悲しみに暮れる....念仏を唱えると、梅若丸の亡霊が現れる、というような話らしい。梅若丸が亡くなった場所である木母寺は墨田区にあるそうで、梅若伝説と墨田区が強い結びつきがある、ということらしい。

この「梅若伝説」をベースに、世阿弥の子である観世十郎元雅が創作したのが能の「隅田川」であり、このストーリーは文楽「雙生隅田川」や歌舞伎の「法界坊」などという形で他の芸能にも伝播していき、「隅田川物」と呼ばれるとか。で。各日本の芸能に広がった「隅田川物」のうちのひとつで東北に伝わった奥浄瑠璃「白川合戦」を、能の「隅田川」を組み合わせ、観世流シテ方の野村幻雪を母役として2005年に上演したのが、今回も出演した浄瑠璃豊竹咲太夫。その後も、この初演をさらに発展させた形で、今度は2014年、梅若丸の母役に尾上菊之助、そして振り付けに藤間勘十郎を迎えて、野村幻雪監修のバージョンが公開された。ここに、能、浄瑠璃、歌舞伎のコラボレーションが実現した、ということになろうか。

アフタートークでは、毎日新聞学芸部門編集委員小玉祥子氏がモデレーターとなり、本上演の立役者となる3名、大倉源次郎、豊竹咲太夫尾上菊之助の話をきくことができた。観客にはぽつぽつと双眼鏡を携えている人がいて、たぶん観客の大部分が菊之助ファンなんだろうなと思わせる。改めて、太棹三味線と小濃の笛、鼓、太鼓がコラボすることの難しさを感じた。あと、途中で三味線から胡弓に持ち替えて演奏していたと思うのだが、そのことをだれもアフタートークで説明してもらえなかったのは残念。でも、「隅田川」という演目に出会えてよかった。お能でみると梅若丸の演出がまた違うらしいので、一度観に行ってみたい。

https://twitter.com/triphonyhall/status/1559759859075035136?s=21&t=LS-AeFG5Ya-xBcz8ZJ223Q


出演者リスト
杉信太朗[笛]
大倉源次郎[小鼓/人間国宝
柿原弘和[大鼓]
豊竹咲太夫浄瑠璃人間国宝
鶴澤燕三 鶴澤燕二郎[三味線]
梅若丸の母/尾上菊之助[歌舞伎立方]