Antoine Boyerの"ワルツ"シリーズに、あの大物マヌーシュ・ジャズギタリストも登場

Antoine Boyerアントワーヌ・ボワイエール。私は、アントワーヌが父親のギタリスト、セバスチャンSebastien Boyerと結成していた「エスメラルド ジャズEsmerald' Jazz」で知ったが、今やすっかり親から独立し、マヌーシュ・ジャズの枠を超えた独自の活躍をしている印象だ。

オフィシャルサイトの経歴によれば、独学でマヌーシュ・ジャズを習得している。お父様とのデュオでレコーディングしたファーストアルバムでは、Francis Alfred Moermanとも共演していた。アルバムの2枚目くらいからその実力を評価されるようになり、今やメジャーなマヌーシュ・ジャズ/ジプシー・ジャズフェスのメインアクトだ。誰もが知るマヌーシュ・ジャズギタリストと舞台を共にする機会も多くなったと思う。

しかし最近の本人はというと、あまりマヌーシュ・ジャズにこだわっている様子はない。クラシックギターのジェラール・アビトンGérard Abitonに教えを請い、その結果フランスのクラシックギター雑誌から賞をもらったりしている。また、最近ではフラメンコギターのサミュエリートSamuelitoとも活動し、アルバムを出したりツアーもしていた。

ヴァイオリンのフィオナ・モンベFiona Monbetと活動はしているようだが、もうマヌーシュ・ジャズの枠のこだわりはないのかな…と思っていたが、ここ半年で、尊敬するミュージシャンたちに対するワルツ曲を次々と発表している。タイトルは"Waltz for XXX"。ということで、現在3作品が公開されている。

はじめにワルツで登場したのは、"Waltz for Angelo"。アンジェロといえば、おわかりだろう。アントワーヌがギターを始める前からインスピレーションを与えられたという、アンジェロ・ドゥバールAngelo Debarreを意識して作曲されたものらしい。曲の雰囲気で、ああなるほど、という感じ。きっとアンジェロのプレイスタイルをふんだんに取り込んでいるのだろう。

で、次に公開されたのは、"Waltz for Bill"。ビルはジャズ業界に多くいる名前かと思うが、このBillはBill Evansだという。"Waltz for XXX”とくればまずはDebby、Waltz for Debbyという名曲がある。だからトリビュートしたくなったのかしら。ちゃんとBill Evansを彷彿とさせる、優しくメロディアスなワルツになっている。

アントワーヌによるWaltz for Debbyはこちら。すごくいい気分になれる演奏です。

そして3曲目。"Waltz for Bireli"…ビレリといえば ビレリ・ラグレーンBiréli Lagrèneしかいないだろう。ビレリもアントワーヌに大きく影響を与えたギタリストなのだという。
この曲には、ビレリのプレイテクニックや旋律をおおいに取り入れているという。難しそうだな。

ギターを弾ける人だと、このワルツのどの部分がビレリっぽい演奏なのか、説明できるのかもしれない。

私は、この3つの映像をみて、アントワーヌの果てしない才能を改めて感じたのだが、それとともに、気が付いた。「ワルツ」というのが、彼が2018年にリリースしたアルバム、"Caméléon Waltz"のタイトルに含まれるキーワードでもあることに。
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自分のアルバムの宣伝のために自作のワルツをリリースするとは、これまた贅沢なプロモーションだこと! あと何曲、ワルツが出てくるのだろうか。次はDjangoのワルツが出てきたりしないだろうか…。