太宰治の小説「おさん」。これは、ものすごく端的にいうと、夫に浮気され、でもなかなか夫への思いが捨てきれない女性が一人称でその気持ちを語る物語だ。これに、能の「井筒」の「序の舞」のお囃子、さらには、アストル・ピアソラのSoledadが重なる。この「井筒」とは、帰らぬ夫を待ち続ける女の例を描いた作品とのことで、井筒の主人公の霊とおさんに共通点を見出したからこそ、これに「孤独」というピアソラの曲を重ね合わせた今回のコラボレーションになったのだと思う。
解説によると「井筒」というのは世阿弥の最高級の作品だという。ただ、お能をわかっている人なら、舞台にススキをあしらった井戸の作り物を認めれば、井筒が上演されるということがわかるらしい。それくらいの教養を持てるようになりたい。
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この作品、終盤は「道成寺」の「乱拍子」が出てくる。これも、見る人がみればすぐにわかるくらい有名らいいのだが、これも、道成寺のテーマである「修験者である男を思い続ける女性の執念」ということなので、おさんの執念を表現するために盛り込まれたらしい。ステップの激しさは少しタンゴを彷彿させるものがあった。
音だけに注目してみると、謡とお囃子の部分が録音(この舞台のために録音したものと思われる)、そして、ピアソラの楽曲部分は生演奏になっていた。Libertangoだけは知っていたのだが、確かに話の筋と雰囲気は合っていると思った。指揮者の岡本醍典氏が音を取り仕切っていらしたが、どういうふうに和と洋の音をまとめあげて、舞とともにアンサンブルを生み出していくものなのだろうか。舞台の大部分がおさん役の屋敷紘子氏と能(シテ)の鵜澤光氏の気迫に支配されていた。今回の融合の妙を自分がすべてを理解しているかはわからないけれど、少なくとも楽しむことはできたと思う。
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