若さも運動神経もない或る女性の初富士登山記録とその振り返り(2022年9月)


ここ数年、富士登山はインバウンド、つまり海外旅行客の間でも人気の旅先となっていて、ものすごい混雑だという話はきいていた。登山者は30万人近いとか。とくに8月はものすごい混みっぷりらしい。ところがここ数年はコロナの影響で登山者の数が減っていると聞いていた。また混雑する前に富士山に登りたいなぁ、という気持ちは漠然と持っていた。

一方で、登山は半端な気持ちで行ってはいけないのは重々承知だ。身近に、滑落事故で半年ほど入院していた方がいたこともあり、あまり軽い気持ちで登山する決心ができなかった。夏は別件で忙しい私は、登山訓練もする時間はなかったのだが、今回、友人に誘われて富士登山を決意した。もし辛くなってしまったら、あるいは恐ろしく悪天候だったらリタイアすればいい。初心者で何もわからないので、富士登山初心者向けのツアーに申し込んで、新宿からバスで五号目に行き、そこから「吉田ルート」という、一番初心者向けのコースでご来光をみることにした。しかも選んだ日程は、9月10日。富士山開山期間の最終日だ。


●事前の体調と訓練状況
私は山登りの経験で唯一誇れるのは高尾山くらい。ケーブルカーを使わずに、高尾山山頂 ~ 一丁平 ~ 城山とか、陣場山に抜けて...というような経験は年に数回体験している。富士登山の訓練に使われるともきく、筑波山には登ったことがあるが、8年くらい前だった上に、相当きつかった記憶だけが残っていた。最近はなんちゃってピラティスと歩く以外の運動はまったくしていなかった。運動神経はまったくなく、細い橋を渡っただけで橋から落ちた経験も多々ある。唯一自信があったのは、肺活量。酸素を取り込む能力が高ければ、高山病にかかりにくいなどのメリットがあるのではないかと考えていた。
困ったのは、登山前日に月のものが来てしまったこと。諸々の処理も大変だが、体調が急に心配になったので、念のため鉄分のサプリは二日連続飲むことにした。前日の晩は、わくわくして眠れず、翌日の山小屋でも3時間程度うとうとした程度で熟睡はできなかった。

●持ち物準備
着用アイテム
登山靴>>元から持っていたゴアテックス、ハイカットタイプのものを着用
アンダーウェア>>速乾性を考えて、100%メリノウールの長袖シャツを購入。これをずっと着用していた
シャツ>>持っていたけれども出番なし
フリース>>夜泊まった山小屋から、山頂までずーっと着用
ジャンパー>>フリースの上に着用できるサイズのもの。ゴアテックス
パンツ>>山登り用の、速乾性タイプ
軍手>>岩場等は岩を掴んで登ることが多かったので、軍手は非常に助かった
ソックス>>ウールの厚手タイプ
リュック>>いわゆる登山用のものがなかったので、普通の街用のものを利用。フリースと行動食、水を入れたらもうパンパン、というようなサイズだったけれども、初心者の山登りは30Lも容量がなくていいのではないか、と感じた。ガイドさんもとにかく荷物は軽量化するように強く勧められた
ネックウォーマー>>日焼け止め、そして寒さ避けの意味もあってずっと着用していた
高性能スパッツ>>足ががくがくになるので、サポート機能のついたスパッツを履いていて助かった

携行アイテム
雨用のパンツ>>「登山靴を履いたまま着用できるタイプのもの」を買ったがかなり高価だった...。ちなみに上着ゴアテックスで雨避けになると考えていた。実際どうなんだろうか。
カイロ>>頂上が寒いので、カイロをいくつか持っていて助かった
水>>500mlのものを持っていき、水がなくなったらその都度山小屋で買い足す戦略にした。山小屋の水は高いが、ペットボトルを引き取ってくれるなどのメリットもある。ガイドさんは、とにかく荷物を軽量化するうように、という方針の方だったのだが、結果的にこれが良かった
小銭>>トイレに行くたびに200円はかかるので、ポケットに小銭をたくさんいれて持ち運んだ
行動食>>チョコ、ゼリー状栄養ドリンク、飴など。すごい勢いで食べるので絶対必要
ビニール袋>>「ザックカバー」というのを持っていなかったので、基本的に荷物はすべてビニール袋に入れてからリュックに入れて持ち運んだ。あと、ちょっと前に「月のもの」が来たので、黒いビニール袋を用意し、汚れたナプキンなどはその都度その袋に入れるようにした。富士山のトイレはトイレットペーパー以外捨てられないのだ。
キャップと毛糸の帽子>>日差しよけ、寒さ避けに使用
メガネ、1 dayコンタクト>>初日はメガネで登ったのだが、マスクのせいですぐにレンズが曇ってしまったので、二日目はコンタクトに切り替えた
バッテリーチャージャー>>山小屋にも充電させてくれるところはあったが、けっこう時間がかかるので、性能の良いチャージャーを持っていくほうが効率がいい
ユニクロのライトダウンベスト>>寒さに耐えられない時に着用
ウェットティッシュ>>登山中鼻水が出た時もすべてウェットティッシュで対応
生理用品>>私は登山前になったので必須だったが、登山の気候で早めに来る人もいるそうなのでどのみち必要
歯ブラシ、デンタルフロス、口腔洗浄液>>歯磨き粉も使えないけれども、やはりちょっとは口の中をすっきりさせたい
のどスプレー>>こんなご時世なので、喉のケアはいつもに増してきちんとやりたかった

忘れて残念だったもの
サングラスやゴーグル>>下山の時眩しくてたまらなかったので。
登山用トレッキングポール>>帰りの、砂のようにさらさらした土壌の上を手ぶらで歩くのは辛すぎた...あとは、「馬の背」をいくのにも必要だな。
三脚など、写真撮影用アイテム>>あった方がよかったなぁと。
スニーカーやサンダルなど楽な靴>>疲れすぎて、下山したら登山靴はもう履きたくない!という気持ちになった
懐中電灯、ヘッドライト>>午前2時過ぎから登山をするので、必須アイテムだった。なんで忘れてきたんだろう私...

不要だったのもの
トイレットペーパー>>山小屋のトイレはどこもきちんとしていた。ガイドさんも「トイレットペーパーは不要だ」と言っていたが、その通りだったな
替えの下着や靴下>>基本的に着替えはする場所もないので、登山には不要
消毒液>>水や石鹸が使えない分、消毒液はどこにでもあった印象

●登山レポート - DAY 1
バスで五号目に着いて1時間くらい過ごしてから登山開始。五号目から六号目までは、テンションが高いこともありハイスピードでさくさく登っていた私だが、この段階ですでにリタイアしている人もいたので、決して簡単な登山ではないんだろうということを実感した。

あとはひたすら登るのみ。ガイドさんがいきやすいトイレの場所などを的確に指示くださったのは助かった。テンションが上がるのは、7号目あたりからかな。雲よりはるかに高い位置にいると気がついた時、感動的に嬉しかった。写真はほぼないが、土壌の色が黒から赤、緑、ローズ...という具合に変化していき、砂場もあれば岩場もあって...そんな変化も楽しかった

太陽が沈む頃に、山小屋に到着。とはいえやることはないので、1時間くらいのんびり過ごして、夕飯をいただき、さらに1時間くらい広場で過ごしてから、8時半には消灯となった。


●登山レポート - DAY 2
翌日は2時に起きて、2時半には「お鉢めぐり」に出発。4時くらいには頂上に到着してそこから火口の周りを時計回りに一周するお鉢巡りへ。浅間代謝奥宮、金明水、銀明水などをみて、日の出る頃には剣ヶ峰に到着。剣ヶ峰には3776m地点があるので、そのポイントを触らせてもらった。この剣ヶ峰にいく手前の「馬の背」と呼ばれるところがとにかく難所だった。砂がサラサラで、なかなか上に登れないのだ。もちろん、手すりもほとんどないに等しい。

頂上にいる時はテンションも高く気分もいいが、帰り道は地獄だ。4−5時間かけて下山するのだが、ずーっとさらさらの土壌が続いており、歩きにくいのだ。おまけに景色もあまり変わらない。飽きるし疲れるしトイレもないし日陰もない。ガイドさんが「お鉢めぐりに参加する際は下山の体力も残しておきなさい」とアドバイスしていたが、この下山は本当に本当に辛かった。おまけに、私は手で拳を作れないくらい浮腫んでしまい、これがまた気持ち悪かった...あまりの辛さに、六号目から五号目までの、1時間くらいの距離も相当長く感じた。いやぁ改めてよくやったよ、自分。


●登山時に出会った不思議な風景
今回は、「ご来光」を狙って登山をしていたのだが、他にも不思議な光景に出会えた。今回の登山はガイドさんも驚く、気象条件の良さだった。雨にも降られることはなく、風も比較的穏やかで寒さも手持ちの服で防寒できる程度。雲海もあったけれどもご来光はきちんと見られた。おまけに、日没と日の出の際には、富士山の美しい形がすそ野や雲に影となって映るという「影富士」をみることができ、ブロッケン現象という、自分の影の周りに虹が現れる現象まで体験できた。その写真をここに記録しておこうと思う。

日没時の影富士

日の出時の影富士

ブロッケン現象

これ以上富士登山に最適な、うってつけの日はあるのだろうか。初心者にとっては運が良すぎる富士登山だったことを認識してしまうと、今後富士山に登りたいとは思わないかもしれないな...。