2018年、米国、Kevin Mcdonald監督
あのホイットニー・ヒューストンが宿泊先のホテルで亡くなったというニュースをきいた衝撃からはや8年が経過しようとしているなか、飛行機でこのドキュメンタリーを見つけた。
映画により、ホイットニーの出身地であるニューアークで「ニューアーク暴動」と呼ばれるアフリカ系アメリカ人の暴動がおこったこと、しかし、彼女は生徒に白人が大部分を占める私立のカトリック系女子校で育っていることなどが明らかになる。母にシシー・ヒューストン、いとこにディオンヌ・ワーウィック等の有名歌手を多く輩出している家だったが、実は虐待の疑惑等もあったりして、そうした暗い過去もすべて暴露されている。もちろん、その美貌からモデルとしても活躍したこと(この映画で改めてホイットニーの美しさを認識した)や、デビューアルバムでのいきなりの大ヒット、だれもが知る映画「ボディガード」での成功、スーパーボールにおける国歌斉唱などハイライトも多く取り上げられているが、ボビー・ブラウンの結婚からは、あまりいいニュースはない。実はマイケル・ジャクソンばりにゴシップ紙にマークされる存在になり、挙句麻薬で逮捕、身内からは金銭問題で訴えを起こされるなど、トラブルが続くまま、再起しきれず亡くなった。しかも、そんな母親に育てられた娘のボビー・クリスティーナの悲惨な状況もこの映画で明かされた。
彼女の在りし日の姿も、苦悩する姿(キャリアの中盤、カメラの前でトップで居続ける辛さを嘆き、母親に泣きつく姿は痛々しい)もドキュメンタリーらしく紹介されている。一方で、ニューアーク暴動に限らず、アメリカの不穏な空気を示す映像と掛け合わせて彼女の生涯を紹介するのは、あまり好きではなかった。第一、アメリカの歴史をわかっていないと、その意味がわからないしな…。さらに、出演している一部の人たちには、ホイットニーに対する愛情が感じられなかった。エゴ丸出し、ゴシッピーな感じで、身内の不始末を暴露しあっている。ボビー・ブラウンは、映画の中でホイットニーの麻薬に関するインタビューは断固コメントを拒否している。そのことについて、監督はボビーが本件を真正面からとらえていないと批判しているが、私は違うと思う。ボビーは彼女を大切に思っているから、麻薬と彼女のドキュメンタリーを結び付けてほしくない、と思ったのではないか。また、ホイットニーのキャリアを担うもう一人の重要人物、同級生で大親友であったロビン・クロフォードに至っては、インタビューをはぐらかして結局インタビューすら受けなかった。これも彼女のホイットニーに対する愛情だと思う。
この監督は、ホイットニーのゴシップ的な側面をもっと描きたかったのに、本当に身近でホイットニーを愛した人たちから話を得られなかったのではないか…一方で、彼女の初出演のテレビ番組や舞台裏の映像は、歴史的資料としてもとても貴重なものだと思う。彼女とその娘が、いかなる理由であれ早くして命を失ったことは残念だと思った。とくに娘は…ご冥福をお祈りします。
なんとなくホイットニーの生涯をみながら、マライア・キャリーのことを思い出してしまった。ホイットニーの再来という鳴り物入りでデビューし、世界的なヒットを生んだものの、体形の変化やボーイフレンド等、ゴシップネタには事欠かない。彼女には何度か再浮上の時があったのが救いかな…。
なおこの映画、日本では来年1月に公開予定とか。この記事は映画のいい解説となっている。
wired.jp