2012年、イタリア・フランス、Reality、マッテオ・ガローネ監督
舞台はイタリアのナポリ。魚屋を営む男ルッチャーノは、暮らしのために魚屋以外の仕事もこなしながら、生活をしている。ある日「ビッグブラザー」という、素人を巻き込んだリアリティ番組のオーディションが街のショッピングモールにやってきた。家族や友人にけしかけられて、ルッチャーノは予選オーディションを受けることに。そして、無事オーディションにこぎ付けるのだった…
ところが、いざオーディションが終わってみると、ルッチャーノの中では自分が優勝したイメージが膨らんでいく。周りにいる見覚えのない人たちが、すべて自分が番組出演にふさわしいかをひそかにチェックしに来た番組関係者と錯覚してしまい、きちんとふるまわなければ…という強迫観念にとらわれるようになる。そして、急に浮浪者に愛想よくふるまったり、家のものを無料で分け与えたり、魚を破格の値段で提供したりしはじめるのだ。オーディションで優勝するために…。
映画の説明に「コメディ」だと書いてあったが、これはまったくコメディではない。「あれ、もしかしたら…」というようなちょっとした思い違いをするとしても、ここまでくるとちょっと病的で痛々しい。家族も巻き込まれてしまって、これはいい妄想ではない。そして彼をこのようにしたのは、周囲の人々のちょっとした善意や悪意のせいでもあるのだ。ルッチャーノの妄想がひどくなるにつれ、観ているこちらも苦しくなってしまった。