Sib/1998/イラン・仏・オランダ/サミラ・マフマルバフ
イランの名監督モフセン・マルマルバフの娘さんによる作品で、実話を元にしているらしい。スペイン語字幕付きで、以下で観賞可能。
YouTube
冒頭シーン。植物にコップで水をやる手がうつる。その素朴ながら美しい色合いにひきつけられるものの、コップの水がうまく植物に与えられていない理由が、すぐにわかることとなる。父親(もう老人にみえる)と盲目の母親は、娘であるザラとマスメを家から一歩も出さない。もちろん、教育も受けていない。そのことで、近所から署名活動が起こり、福祉施設の支援により、娘たちは晴れて外の世界に出ることになる。
二人とも言葉が遅いうえに、マスメには、知的障害がありそうだ。そして二人とも歩き方がおぼつかないようにみえる。そして、両親は福祉施設にいわれてもなお、娘たちを閉じ込めようとするのだ。家は、固く閉ざされた門と、格子状になっているドアの2構造なので外の光をみることができ、監禁という感じは少ないけれども、やはり衝撃的といえる。でも、両親は事の重大さがわかっていないようにみえる。両親が彼女たちを監禁するのは、母親の目が不自由ななか、かわいい娘たちを守るためなのだ。花である女の子は、光にあててはいけないという古くからの教えを守っているのだ。福祉事務所と生じる齟齬、父親はこの生きにくさを儚んで祈りの歌を歌い、母親は自分の行動の正当性を述べて、そこに介入してきた第三者を汚い言葉で罵倒する。
それでも晴れて外に出た二人は、色々な出会いをして、成長していくようにみえる。子供たちは、二人が無知のままであることを知らないため、なかなか手荒な社会体験を強いているようにみえる。お金とか物の価値とか人との接し方を知らないと厳しかろう…でも子供たちの垣根のなさが、逆にすがすがしくてよい。
タイトルになっているリンゴは、映像の端々で印象的に描かれている。家族の絆の象徴であり、社会生活を知るツールであり一家の日々の糧でもある。見えない母親がリンゴをがしっとつかむシーンに、ちょっと明るい未来を感じることができる映画。
それにしても、社会問題を芸術センスを忘れることなく描ける監督の手腕は素晴らしい!